ホラー映画ときくと心霊現象などのオカルト的なホラーを思い浮かべる人が多いでしょう。しかしながら最近ではホラーの中でも、細かいジャンルに分類できるほど、多くの作品が生まれ続けています。
サイコホラー、コメディホラー、カルトホラー、アクションホラー、、、それぞれ非常に独特なテーマで作品が作られています。
そんなただのオカルトではない、異色のホラー映画を公開年度順で紹介します。
- タイトルはもはやハルエであるべき「サユリ」
- 主演ミア・ゴスの怪演に飲み込まれる「Pearl(パール)」
- ベジタリアンは鑑賞注意「ヴィーガンズ・ハム」
- ニコラス・ケイジがホラー映画でも大暴走「ウィリーズ・ワンダーランド」
- 狂った白昼夢のような世界にようこそ「ミッドサマー」
- 悪夢のセイウチファイト「Mr.タスク」
- もはやサスペンスな韓国ホラーの傑作「箪笥(たんす)」
タイトルはもはやハルエであるべき「サユリ」
【作品情報】
公開年度 | 2024年 |
製作国 | 日本 |
ジャンル | オカルト |
監督 | 白石晃士 |
原作 | 幻冬舎コミックス「サユリ」押切蓮介 |
異彩を放つ漫画家、押切蓮介作品の中でも、最恐傑作・恐怖の新たな到達点とも囁かれる「サユリ」の実写化作品。
劇場公開中作品。
【あらすじ】
別居していた祖父母とともに、夢のマイホームに引っ越してきた神木家。そこは中古の平凡な一軒家であるが、家族みんなそれぞれが新しい生活への期待に不安に浮足立った気持ちになっていた。
しかし、引っ越してすぐに異変に見舞われる神木家。不安を振り払うように「庭でバーベキューでもしよう」と楽しそうに口にしていた父は、翌日布団の中で冷たくなっていた。この家にはなにかが棲み付いていた。その後も連鎖するように祖父、弟、母、姉が変死を遂げていく。
まだ中学生の則雄と認知症の進んだ祖母春枝だけが、異様な雰囲気の漂う家に取り残され、とうとうパニックに陥ってしまった則雄。その時、突然人が変わったように覚醒した春枝が喝を入れる。
家族に見舞われた不幸を知った春枝は宣言する。
「さっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ!復讐じゃあ!!」
【評価・感想】
総合 | ★★★★☆ |
構成 | ★★★☆☆ |
怖さ | ★★★☆☆ |
演出 | ★★★★☆ |
独創性 | ★★★★☆ |
漫画の実写化はあたりはずれの大きいコンテンツと思います。特に日本製作の実写作品は普段期待しないのですが、今回は「ノロイ」の白石監督ということと、原作の奇天烈展開を知っていたので、実は結構期待していました。
ネタバレになるので、軽い感想だけにしておきますが、流石白石監督というような作品でした。新たなジャパニーズホラーの誕生です。
とにもかくにも登場人物である祖母の春枝のインパクトが強く、もはや危険人物。かなり恐ろしいはずに『サユリ』の恐怖が霞んでしまいます。春枝役の根岸李衣さんの演技が光っています。
生きてる人間はどうすれば幽霊に対抗できるのか。春枝が答えを教えてくれるでしょう。
絵の好みは分かれますが、原作漫画も非常に面白いので是非!
主演ミア・ゴスの怪演に飲み込まれる「Pearl(パール)」
【作品情報】
公開年度 | 2023年 |
製作 | アメリカ・A24 |
ジャンル | サイコ・サスペンス・微スプラッター |
監督・脚本 | タイ・ウエスト |
主演 | ミア・ゴス |
第95回アカデミー賞7部門受賞を受賞した作品。A24初の長編ホラー3部作の2作目。
【あらすじ】
舞台は1918年のテキサス。体の不自由な父親と規律の厳しい母親とともに農場で暮らすパールという少女。単調な毎日を過ごしているパールの夢は、スクリーンの中で踊る煌びやかなスターになること。その思いは、映画館でとある映写技師の男性と出会ったことでより一層強まることに。そんな折り、地方を巡業するショーの一団のオーディションが近く開かれることを知ったパール、参加を決意するが母親にいさめられてしまう。口論はエスカレートし、ついには最悪の事態に、、、
抑圧され続けた少女は母親の呪縛から、殻を破るように徐々に自分を解放する。
A24制作の全3部作作品の2作目。
【評価・感想】
総合 | ★★★★★ |
構成 | ★★★★☆ |
怖さ | ★★★★☆ |
演出 | ★★★★★ |
独創性 | ★★★★☆ |
マーティン・スコセッシ監督も魅せられたという主演女優ミア・ゴスの怪演こそ本作最大の見所と言えるでしょう。本作ではシリアルキラーのパール役を演じていますが、前作の「X」においては年老いたパールに襲われる被害者の立場である主人公のマキシーン役として出演しています。さらには脚本やエグゼクティブプロデューサーも兼ねており、30歳という年齢でありながら、その才能を十二分に発揮しているようです。
劇中の母親はとても厳格な姿に表現されていますが、劇中の台詞から、母親は理由もなく厳格であったわけでなく、パールの純粋に見える性根の裏側には、おぞましい怪物が隠れていることを感じていて、あえて厳しく接していたように思えます。その結果、抑圧されすぎた本性が顔を出し、パールをシリアルキラーに仕立てたのかもしれません。母親に受けた影響も、パールの異常性と混じっていきます。ですが、純粋でいてどこか狂っているパールの姿に、強く惹き付けられたのは僕だけではないでしょう。異常者であるパールですが、僕はどこか人間味が感じられました。それは誰でも何かしらパールのような異常な部分を持っていて、その部分が彼女の姿に共鳴するからかもしれません。
パールの夢であるスターへの第一歩を踏み出すため、ショーのオーディションに参加した彼女ですが、残念ながら望み通りの結果とはいきません。失意の中、一緒にオーディションを受けた義理の妹に付き添われ、なんとか自宅まで帰りますが、そこでパールは義理の妹に慰められながら独白を始めます。このシーンはただパールが話し続けるだけの場面ですが、パールと二人きりというシチュエーションで衝撃の事実を聞かされている妹にとってはとてつもない恐怖で、観ている側に臨場感を与える場面でした。この怖さをあえて例えるなら、電車で隣に座ってきた人が、やばい人だったみたいな感じですね。
最後のスタッフロールでは、背景で物語が続きます。このシーン、言葉はないのですが、とてもメッセージ性の高い映像となります。特にここのミア・ゴスの演技がすごすぎてトラウマものですが必見です。
ベジタリアンは鑑賞注意「ヴィーガンズ・ハム」
【作品情報】
公開年度 | 2022年 |
製作国 | フランス |
ジャンル | サイコ・コメディ・微スプラッター |
監督・脚本 | ファブリス・エブエ |
原題 | Some like it rare |
【あらすじ】
夫婦で精肉店を営むヴィンセントとソフィー。厳しい経営状況ながらも肉の品質にはこだわりを持っているヴィンセント、余裕のない生活の中、倦怠期まっただなかの夫婦仲
に良くなる兆しは見えてこない。そんなある時、覆面を被った過激派ヴィーガンの集団に店を荒らされてしまう。大きなストレスを抱えたヴィンセントは、偶然発見した犯人の一人をうっかり殺害し、死体処理に頭を抱えていたが、ソフィーの勘違いでハムとして売り出してしまうと瞬く間に人気商品に。一度味わってしまってはやめられない。それは経営の潤った肉屋だけでなく、顧客達も同じこと。夫婦は材料の仕入れのため、ヴィーガン狩りを始める。
【評価・感想】
総合 | ★★★☆☆ |
構成 | ★★★☆☆ |
怖さ | ★★☆☆☆ |
演出 | ★★★☆☆ |
独創性 | ★★★★☆ |
コメディアン出身のファブリス・エブエが監督・脚本を務めた作品らしく、随所にブラックなユーモアが含まれた映画に仕上げられており、おどろおどろしい雰囲気はなくコメディ作品らしい軽やかさのあるコメディホラーと言える作品です。しかしながら、かなりの問題作とも言わざるを得ません。観る人によっては気分が悪くなるようなセンシティブな作品のため、コメディ要素を多めにして胃もたれしないようにしているのかもしれません。ハム好きな人は要注意!
ヴィーガンズ・ハムというタイトル通り、ヴィーガン肉のために人狩りをするのですが、非常にヴィーガン界隈の人達を煽る表現が多いです。登場するヴィーガンが過激派や憎たらしい頭のおかしいやつらばかりなのも見どころです!特に夫婦の娘が連れてきたヴィーガン彼氏、かなり笑えます。
コメディチックに作られた作品ですが、実際に鑑賞してみるとかなり考えさせられる風刺的なブラックコメディです。鑑賞するとこちらの倫理観までバグります。
ニコラス・ケイジがホラー映画でも大暴走「ウィリーズ・ワンダーランド」
【作品情報】
公開年度 | 2021年 |
製作国 | アメリカ |
ジャンル | オカルト・スプラッター・パニック・アクション |
監督 | ケビン・ルイス |
主演 | ニコラス・ケイジ |
【あらすじ】
連続殺人鬼たちの魂が宿った、悪魔のようなアニマルロボットたちが支配するテーマパーク。「ウィリーズ・ワンダーランド」。悪魔たちの矛先が自分たちに向くのを恐れ、住民たちは何十年間も町に訪れる旅人を生贄に差し出し続けてきた。幼い頃、両親共に標的となった少女は奇跡的に生還し、成長した今、仲間たちとテーマパークを潰すと決意し決行に移す。しかしテーマパークの中には、すでに生贄とされてしまった主人公の姿が・・・
【評価・感想】
総合 | ★★☆☆☆ |
構成 | ★★☆☆☆ |
怖さ | ★☆☆☆☆ |
演出 | ★★★☆☆ |
独創性 | ★★★★★ |
まず、この作品の特徴は凶悪なアニマルロボットたちの標的となってしまった主人公がニコラス・ケイジということ。アクション映画の大スターがホラー映画の主人公!?という驚きが本作を鑑賞することになったきっかけです。
ニコラス・ケイジ主演でどんな仕上がりになっているかというとこの映画、本当にまったく怖くない!よくよくジャンルを確認してみると、アクションホラー映画というもので、アクション要素が強すぎてホラーが薄まっています。ニコラス・ケイジが強すぎて、襲い掛かってくるアニマルロボットをスプラッター映画の殺人鬼よろしく、バラバラに分解。果たしてどっちが悪魔なんだというような感覚になります。
映画全体として常に夕日にあてられているような色温度のホワイトバランスに設定されており、ハードボイルドかつバイオレンスな映画となっています。
そして、主人公のニコラス・ケイジ、まったく喋りません。ロボットを殴る時に出る「ふん!」とか「おらぁ!」といったような声は出しますが、その他の登場人物との会話は皆無です。初めから終わりまで話さないため、名前もわからないという始末です。拳と背中で語る、外国製高倉健のような漢っぷりに注目です。それと何の説明もないため伏線がどうかも不明でしたが、ビールを飲む時間をタイマーで設定しているくらいのアルコール依存症っぷり。ビールを飲むたびに夢中でピンボールマシンで遊んでおり、本当に謎でした。
ホラー映画というよりもハードボイルドなアクション映画と捉えたほういい映画ですが、ニコラス・ケイジが悪魔相手に無双する姿は面白いので、観ておく価値はあります。
狂った白昼夢のような世界にようこそ「ミッドサマー」
【作品情報】
公開年度 | 2019年 |
製作 | アメリカ・A24 |
ジャンル | パニック・カルト・サイコロジカル |
監督・脚本 | アリ・アスター |
主演 | フローレンス・ピュー |
【あらすじ】
精神疾患を抱えた妹の凶行により、自分以外の家族を失ってしまった主人公のダニー。恋人のクリスチャンはそんな依存気味のダニーに辟易していたが、精神的に弱り果てたダニーを友人たちとの旅行に同行させることに。そこは友人の一人であるペレの故郷で、スウェーデンのホルガ村という独自の文化を築くコミュニティだった。ちょうど村では数十年に一度の特別な夏至祭が開催されるとのことで、ダニー達は住民に混じり生活を共にしながら祭りに参加するが、徐々に村に隠された狂気に飲み込まれていく。
【評価・感想】
総合 | ★★★★★ |
構成 | ★★★★☆ |
怖さ | ★★★★☆ |
演出 | ★★★★☆ |
独創性 | ★★★★★ |
「暗闇から恐怖を感じる」というこれまでのホラーの常識を無視し、煌々と白夜に照らされた祭典に隠された狂気と童話の中にいるような美しい色彩や風景によって、恐ろしい白昼夢を見ているような感覚に襲われる映画でした。作中の主人公たちは常に怪しい葉っぱや怪しい飲み物を摂取させられており、終盤には主人公たちの朦朧とした意識や幻覚が映像として表現されており、夢か現実わからないといったような世界に引き込まれ、衝撃のラストとなります。
驚かされるような怖さはなく、ゆっくりと精神的なダメージを与えてくる映画です。鑑賞後のなんともいえない後味の悪さが尾を引きます。
色々な意味で非常に含みや謎が多く、考察の捗る映画です。スウェーデンの伝統や民族宗教、ルーン文字など普段目にしないコンテンツが盛りだくさんです。考察サイトも多くあるため、鑑賞後に拝見し自分の考察と照らし合わせるのも一つの楽しみです。
悪夢のセイウチファイト「Mr.タスク」
【作品情報】
公開年度 | 2014年 |
製作国 | アメリカ |
ジャンル | コメディ・サイコ |
監督 | ケビン・スミス |
出演 |
マイケル・パークス |
【あらすじ】
アメリカのポッドキャスター、ウォレスとテディ。変人をコケにして笑いを誘う下衆なネット配信を行い人気を博している二人は、日本刀を振り回し足を切り落としてしまった「キルビル少年」を取材と称し馬鹿にするため、ウォレスははるばるカナダまで取材旅行に。しかし取材前に少年が自殺したことにより取材できなくなってしまった。バーで途方にくれていると、トイレに貼ってあった張り紙が目についた。「老人の冒険譚を聞いてくれないか」。張り紙に書かれてあった住所をもとに、意気揚々と老人宅まで向かったウォレス。屋敷の主人である車椅子の老人が語る物語を興味深く聞いていたウォレスだが、飲み物に混ぜられた薬によって眠らされてしまう。老人は自身の夢を叶えるため、メスを手にする。
【評価・感想】
総合 | ★★★★☆ |
構成 | ★★★☆☆ |
怖さ | ★★★☆☆ |
演出 | ★★★☆☆ |
独創性 | ★★★★☆ |
セイウチ大好きキチガイ老人によって、セイウチに魔改造される映画。昔観た「ムカデ人間」という超問題作を思い出したが、あそこまでの嫌悪感は感じませんでした。毒気のあるジョークは割と笑えます。それなりに再現度の高いセイウチ主人公がペタペタ動く姿がちょっと面白いです。真面目な顔して「人間はセイウチなのかもしれない・・・」と呟く老人もやばいですし、終盤のセイウチファイトは見物です。個人的には結構ツボにはまったB級ホラー映画です。ぞくっとなるような、ちゃんとしたホラーシーンもありますよ。老人役のマイケル・パーク氏の演技が恐ろしいです。
ジョニー・デップが特殊メイクで出演していますが、実は娘も出演しています。
最後のエンドロールで、作中の人物とは違うポッドキャスターみたいな二人が本作について笑いながら馬鹿にする演出があるので見逃さないように。ここも笑えます。
もはやサスペンスな韓国ホラーの傑作「箪笥(たんす)」
【作品情報】
公開年度 | 2003年 |
製作国 | 韓国 |
ジャンル | オカルト・サスペンス |
監督 | キム・ジウン |
脚本 | キム・ジウン |
韓国では誰でも知っている古典怪談『薔薇花紅蓮伝』を原題としたホラー映画。本作で6度目の映画化。ハリウッド・リメイクの『ゲスト』はスティーブン・スピルバーグ監督が史上最高額でリメイク権を手に入れています。
公開から20年以上が経った今でも、韓国のみならず海外でも評価を受けている韓国ホラー映画の傑作です。
【あらすじ】
自然溢れる山奥の古ぼけた一軒家に帰ってきた父とまだ幼い姉妹。彼らを出迎えたのは妙齢の美しい後妻、ウンジュ。明るく振る舞うウンジュだが、彼女に対する冷ややかな姿勢を崩そうとしない姉妹に家庭内にはギクシャクとした空気が漂う。そんな状況の中でも、父親は口を出さず、何故か傍観を決め込んでいた。
姉妹とウンジュとの溝は深まるばかり、ついにあることがきっかけでウンジュが妹スヨンを箪笥に閉じ込め鍵をかけてしまう。その行為に激高する姉スヨは父親にウンジュの悪行を父親に訴えるが、徐々に苛立ちを募らせる父親の口からは信じられない言葉が。
真実の扉を開いた時、幻想と現実のはざまで揺れる少女の心はどこへ向かうのか。
【評価・感想】
総合 | ★★★★☆ |
構成 | ★★★★★ |
怖さ | ★★★☆☆ |
演出 | ★★★☆☆ |
独創性 | ★★★★☆ |
韓国映画らしい巧みな心理描写と、余韻の残るジメリとした湿り気のある恐怖感で表現された古典怪談のリメイク映画。原題となった『薔薇花紅蓮伝』とは違う結末であり、現代的な解釈やアレンジが加えられているため、ホラー映画らしい恐怖感もさることながら、多くの伏線や謎が散りばめられたサスペンス的要素の多い作品。あまりにも哀しすぎる結末と衝撃の真実が明かされる時、ただのホラー映画では感じることのできない感情が湧き上がってきます。